公開日 2013年3月21日
更新日 2024年2月7日
鬼の頭
昔むかし、その昔、木島平一帯は茅や葦の茂った原で少しばかりの人家が、そこここに散在していたのみであった。
そのころ大きな一匹の鬼がどこからか現れて、あっちの村を、こっちの村などを荒らし廻るという噂がひろまった。人々はそのために、いつ荒らし廻られやしないかと、おちおち眠れもしないほどである。
けれど誰一人、その恐ろしい大鬼の姿を見た人とてなかった。
一面の葦や茅に秋風の吹き渡る或る夕方、一天にわかにかき曇り、さながら真の闇夜のような有様となるとともに、天地に響く「ウワーン」と大音響が起こった。
「すわこそ大鬼が出たぞっ」と人々はみな戸締をして堅く内にすくんでいると、間もなく吹きすさんだ風もおさまり、窓が明るくなった。ホッとした人々もま ず安心無事でよかったと戸口を開けば、いつしか空は晴れわたり、8日頃の月が下界に何事があったのかといったような顔をして照り映えていた。さては何事だったろうと近所近辺はその話でもっちきりであったが、さして変わったこともなかったようす。すると7、8日たった昼さがり、1匹の大鬼の胴体だけが、今の木島(飯山市)鬼神堂附近のくさむらの中に現れた。さてはと大さわぎになり、人々は大鬼の胴体の恐ろしさにおののき、ふためいた。おそろしい大鬼の頭は というと今の上木島(木島平村)の照明寺大門先にあらわれた。
その後誰ということなく鬼の頭があった方を上木(鬼)島と呼び、胴のあった方を下木(鬼)島と呼ぶようになった。 また今の往郷附近では、計り見ていたから計見(けみ)という名がついたとのことである。
現在、照明寺の旧大門に鬼の首塚と称する所がある。
(上木島誌による)