村に伝わる民話:雌滝の主

雌滝の主

　瑞穂の池、柏尾宝全寺という寺があり、寺前に滝がある。そこに大蛇が棲み、数百年を経て池中に住み難くなって、ある夜住僧にの夢枕に立って告げていわく。

　「この小池はわれの棲むところにあらず、上木島は樽川の雌滝に赴き住みて主たらんとす、よって八頭の馬を盛装して曳き来たりて、われを騎せて至るべし」と。

　住僧はただちに里人とはかり、早速八頭の馬を用意して、池前から行列を整え、厳かに雌滝まで至るに、その馬悉く発汗はなはだしく、人皆その様を目の当たりにして畏れおののきたりと。

　それより大蛇は雌滝の主になったという。

　由来、柏尾は用水にとぼしく、真夏十数日に及んで雨のないところは、ひどい旱害を蒙る地である。里人あい集いてその難をまぬがれようと、しばしば雨乞いと称して天に祈る。その甲斐なく雨降らない時は、この大蛇の縁故事にたより、宝全寺の住僧は緋の衣を着し、乗馬して里人とともに行列し、鉦、太鼓を打ち鳴らし、雌滝に至る。住僧おごそかに読経して主の大蛇に里人の願いを乞い、清酒一升を滝つぼに注ぐ。

　たちまちにして聚雨消然としていたり、里人ら慈雨をよろこび、生気あふれて生業にはげむとともに大蛇のあらたかな霊気に打たれしという。

(計見誌より)